旅館業

許可を取るための旅館業法徹底解説

旅館業は、平成29(2017)年12月15日に改正・施行され、それに伴う施行令・施行規則も平成30(2018)年1月31日に改正・施行されました。
旅館業許可を取得する為に、旅館業をどう解釈し、どう活用するのか、徹底解説します。
旅館業法は附則も含めて、わずか16条の短い法律です。

知事が許可を拒否できる理由は3つだけ

第三条は「旅館業を営もうとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受けなければならない。」と定めています。
「許可を受けないで旅館業を営んだ者」は「六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(第十条)となっていますので、必ず許可の取得が必要です。
第三条は第二項で「都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき、又は申請者が次の各号のいずれかに該当するときは、同項の許可を与えないことができる。」と定めています。
つまり、知事は許可申請があったときに、それを拒否できるのは3つの場合だけで、それ以外は許可を与えなければならないのです。

拒否できるのは、①構造設備が基準に適合しない場合、②設置場所が公衆衛生上不適当である場合、③申請者が破産状態であったり、禁錮以上の刑を受けていたり、暴力団員であったり、欠格事由に該当する場合です。②や③は稀なことですので、要は旅館業施設が構造設備基準に適合していれば、知事は許可を与えることが義務付けられているのです。

政令で定める構造設備基準とは

一番の関門は、政令で定める構造設備基準を満たすことですが、それは以下の旅館業法施行令第一条に規定されています。
第一条 旅館業法(以下「法」という。)第三条第二項の規定による旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 一客室の床面積は、七平方メートル(寝台を置く客室にあっては、九平方メートル)以上であること。
二 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障を来さないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その設置場所が法第三条第三項各号に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルの区域内にある場合には、当該施設から客室又は客の接待をして客に遊興若しくは飲食をさせるホール若しくは客に射幸心をそそるおそれがある遊技をさせるホールその他の設備の内部を見通すことを遮ることができる設備を有すること。
八 その他都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市又は特別区。以下この条において同じ。)が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
2 法第三条第二項の規定による簡易宿所営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たって宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
二 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

建築基準法違反の建築物でも許可は下りるのか

よく問題になるのは、政令と条例で定める構造設備基準を満たしていても、建築基準法に違反している場合に果たして許可が下りるのかということです。
これについては、「昭和二八年七月一五日付鳥取県知事照会に対する厚生省公衆衛生局長回答」の中で、「旅館業の許可の可否は、もっぱら公衆衛生の見地から決定すべきものであるから都道府県知事は、当該営業の施設の場所及びその構造設備が公衆衛生上支障がないと認めたときは、当該施設が建築基準法による建築の確認を受けていないものであつてもこれを許可しなければならないものと解されたい。」と述べられています。

実際に、元々戸建住宅や共同住宅として使われていた建物で旅館業の許可を取得する場合、用途が変更となっているのですから、どこかに建築基準法上の違反事項が生じるのは当然のことです。その場合でも知事は許可を与えなければならないのです。

学校、認定こども園、児童福祉施設、社旗教育施設の周囲100メートル以内も許可を与えないことができる

第三条第3項では、施設の設置場所が、学校、認定こども園、児童福祉施設、社旗教育施設の内知事が条例で定めるものの周囲おおむね百メートルの区域内にある場合は、「その設置によって当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるとき」も許可を与えないことができると規定しています。

しかし実際には、許可を与えないこととしている自治体は少なく、同条4項で規定している上記施設の管轄部局(教育委員会等)に意見を求め、そのうえで許可を与えている場合がほとんどです。

衛生管理要領は義務ではなく、事業者へのお願い

第四条は「営業者は、旅館業の施設について、換気、採光、照明、防湿及び清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければならない。前項の措置の基準については、都道府県が条例で、これを定める。」と定められています。
この規定に基づいて、国は「旅館業における衛生等管理要領」を定め、各自治体でも「衛生等管理要領」が定められています。

しかしこれはあくまで事業者にお願いであり、事業者・国民を拘束するものではありません。大阪府の「府旅館業衛生管理要領」には、その「第一目的」のところに「この要領は、旅館業における構造設備及び衛生に必要な措置に関する望ましい事項を定めることにより、旅館業における一層の衛生水準の確保及び向上を図り、併せて善良の風俗を保持することを目的とする。」と、義務ではなく行政指導の一環であることが規定されています。

旅館業許可が取り消される場合とは

第八条は、「都道府県知事は、営業者が、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律に基づく処分に違反したとき、又は第三条第二項各号(第四号を除く。)に該当するに至つたときは、同条第一項の許可を取り消し、又は一年以内の期間を定めて旅館業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。」と定めています。折角取得した許可が取り消されたら大変です。
ここで言う、「この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律に基づく処分に違反したとき」とは、第七条の二に規定する①旅館業の施設の構造設備が基準に適合しなくなったときに改善の命令を出したとき、②公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な措置をとることや営業停止を命じたときに、それに従わなかった場合です。
構造設備基準を満たさなくなった場合や「公衆衛生上の危害の発生若しくは拡大又は善良の風俗を害する行為の助長若しくは誘発」する場合に、最初から営業停止や許可の取消を行うのではなく、知事は先ず改善命令を行い、それに従わない場合に初めて営業停止や許可の取消を行うことができるという内容になっているのです。

ここでもポイントは構造設備基準を守っていれば許可が取り消されることは無いと言うことです。

各自治体での旅館業営業許可の要件

大阪市
大阪市の特徴と許可取得の留意点は以下の通りです。
  1. 建築計画の届出⇒旅館業営業許可という二段階の申請となります。周辺110メートル以内に学校、保育所、公園等があると教育委員会との協議が必要となるため、申請から許可取得まで5ヶ月以上必要となる場合もありますので、早めの準備が必要であり、先行して民泊新法の届出を行って営業を開始することをお勧めします。
  2. 他の自治体に比して窓面積、トイレ、シャワー数、洗面数などの細かな規制があります。
  3. 周辺110メートル以内に学校、保育所、公園等があると、建物の色、ベッドを置く場合の設置基準など更に規制が強化されます。

ホテル・旅館営業

▶客室面積
一客室の床面積は、7㎡(寝台を置く客室の場合は、9㎡)以上であり、1人当たり3.3 ㎡以上であることが必要です。
(注1)1客室の有効部分の面積は、寝室、休憩等の用に供する部分の床面積を合計することにより算定します。クローゼット、押入れ等常時閉鎖空間になっている部分は除外されますが、シャワー、浴室等は含めます。
(注2) 面積の算定に当たっては、建築で使用する壁芯とは異なり、内のりで算定します。
▶窓面積
窓は、就寝の用に供する部分に設け、就寝の用に供する部分の床面積の概ね8分の1以上(簡易宿所は10分の1以上)の面積を有しなければなりません。(大阪市旅館業規制指導要綱 )ワンルームの場合、「就寝の用に供する部分」とは、通常客室面積からトイレ、風呂、洗面所部分を除いた面積です。
▶風呂・シャワー
共同用のシャワー設備を設ける場合は、宿泊者の需要を満たすため、収容定員 (入浴設備を付設する客室の定員を除く。)に対し、10人までごとに1個以上を有することが必要です。
▶洗面
共同用の洗面設備を設ける場合は、宿泊者の需要を満たすため、収容定員(洗面設備を付設する客室の定員を除く。)に対し、5人までごとに1個以上(30人を超える場合は、6個に30人を超える収容定員10人までごとに1個を加えた数)を有することが必要です。
▶トイレ
共同用の便所を設ける場合は、収容定員(便所を付設する客室の定員を除く。)に対し、5人までごとに1個以上(30人を超え300人以下の場合は、6個に30 人を超える収容定員10人までごとに1個以上を加え、300人を超える場合は、33個に300人を超える収容定員20人までごとに1個以上を加えた数。ただし、半数以上は洋式便器又は大便器とすること。)を有することが必要です。

玄関帳場を有しない場合の必要な設備

▶管理事務室とビデオカメラの設置
宿泊施設の出入口の付近に宿泊者の出入りを確認するためのビデオカメラその他の機器を設置し、宿泊しようとする者の確認を適切に行うための管理事務室を大阪市域内において宿泊施設の周囲 1,000 メートルの区域内に確保することが必要です。
管理事務室は、ビデオカメラの映像がチェックできれば、専用の施設でなくても構いません。
ビデオカメラは、近隣住民等のプライバシーに配慮した場所に設置し、録画機能を有することが必要です。
▶電話機等の設置
客室及び管理事務室に宿泊者と連絡をとることができる電話機その他の機器を有することが必要ですが、固定電話でなく、携帯電話でも専用のものなら大丈夫です。
▶宿泊施設への表示内容
宿泊施設の出入口の付近に、①事故等対応者の氏名、電話番号②当該宿泊施設が旅館業の施設である旨③管理事務室の所在地が表示されていることが必要です。
▶管理事務室への表示内容
管理事務室の出入口の付近に、①事故等対応者の氏名、電話番号②当該宿泊施設が旅館業の施設である旨③宿泊施設の所在地が表示されていることが必要です。

学校、保育所、公園等が敷地周囲110メートルの区域内における場合の要件

▶寝台を設置する客室を有する場合の制限
寝台を設置する客室を有する場合は、①定員1名の客室の数が寝台を設置する客室の総数の3分の1以上であり、かつ、2人用の寝台が設置された客室の数が寝台を設置する客室の総数の3分の1以下であること。若しくは、②幅0.9メートル以上の独立した寝台が4つ以上ある客室が寝台を設置する客室の総数の2分の1以上であること。という要件を満たすことが必要です。
「ワンルームでとても寝台が4つも置けない」という場合は、寝台を置かない部屋にすることが必要です。
▶色の規制
各立面の面積のうちに規制色を使用する部分の面積の占める割合が20分の1以下で無ければなりません。マンセル表色系で赤(R)系の色相の色のうち、彩度6を超える色又は彩度3を超え、かつ、明度4を超える色
マンセル表色系で黄赤(YR)系又は黄(Y)系の色相で、彩度4を超える色
マンセル表色系で前2号に掲げる色相以外の色相で、彩度2を超える色
金色

近隣住民への周知義務

総客室の延べ面積が 33 ㎡未満である施設において旅館業を営もうとする場合は、事前に以下の項目について住民に説明し、その結果を市長に報告しなければなりません。
  • 営業者等の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)
  • 旅館業の施設の名称及び所在地
  • 営業の種別
  • 苦情等に対応する者の氏名及び電話番号
  • 廃棄物の処理方法

宿泊者への説明内容

  • 宿泊施設に備え付けられた設備の使用方法
  • 廃棄物の処理方法
  • 騒音等により周囲に迷惑をかけないこと
  • 火災等の緊急事態が発生した場合の通報先及び初期対応の方法(防火、防災設備の使用方法を含む。)

旅館、ホテル用途の消防設備

旅館業施設の消防法令上の用途は、消防法施行令別表第1(5)イ「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」とされます。本用途に適合した消防設備の設置、防炎物品の使用及び防火管理者の選任等が義務付けられることがあり、申請には消防法令適合通知書を添付することが必要です。

簡易宿所営業

法改正によって、ホテル・旅館営業と殆ど違いが無くなりました。
主な相違点は以下の通りです。
▶客室面積
客室の合計延べ床面積は、33㎡以上であることが必要です。宿泊者が10人未満の場合は、3.3㎡×宿泊者数です。1客室の1人当たり面積は、1.6㎡以上であることが必要です。
▶多人数で共用する客室が面積の半分以上
室の延べ床面積の2分の1以上が多人数部屋である必要があります。多人数とは2人以上のことですが、基本的に「他人」が部屋を「共用」することを前提にしているため、ダブルベッドに二人が寝ることは出来ません。但し、一人で寝る前提ならダブルベッドを置くことは可能です。面積の半分未満は簡易宿所でも多人数で共用しない部屋を設置できるので、ダブルルームを設置することも可能です。
札幌市

「札幌市旅館等建築指導要綱」に基づく「事前協議」が求められる

札幌市は、商業地域の一部を除く、旅館業許可取得可能地域のほとんどで、「札幌市旅館等建築指導要綱」に基づく「事前協議」が求められています。 内容は、札幌市保健所長への事前協議書の提出と、周辺住民等への計画の公開(計画の概要を示す標識の設置、説明会の開催等)等です。計画が基準に適合していない場合は計画の変更又は中止の勧告が行われます。
担当 保健福祉局保健所環境衛生課 011-622-5165担当 保健福祉局保健所環境衛生課 011-622-5165

札幌市旅館業許可の主な内容

札幌市の旅館業許可申請の一番の特徴は、「札幌市旅館等建築指導要綱」に基づく「事前協議」等が求められることです。
▶構造等の基準
  1. 駐車場から直接客室に入る構造になっていないこと。
  2. 善良な風俗や健全な生活環境を害する意匠及び形態でないこと。
  3. 施設が学校、保育所、公園等の周囲200㍍の区域にないこと。但し保健所長が善良な風俗を害するおそれがないと認めた場合は除く。
▶計画の公表
  1. 20日間標識を設置すること
  2. 周辺住民その他関係者から説明を求められたときは説明会を開催すること。(周辺住民その他関係者とは、の範囲で)
▶勧告
保健所長は、構造等の基準に適合しないと認めるときは、その計画の変更又は中止を勧告することになっています。
▶学校、保育所、公園等の周囲200メートルの区域では旅館業許可は無理なのか?
先ず、この「要綱」は強制力のあるものではなく、単なる行政指導ですので、これに反しても、法令に適合していれば市長は旅館業営業許可を出さなければなりません。
又、担当課に問い合わせたところ、通常は「善良な風俗を害するおそれがない」と認め、「計画の変更又は中止を勧告」した件数は数件だったようです。
▶主な構造設備基準は以下の通りです
  1. 玄関帳場の床面積は、3.3平方メートル以上であること。受付窓口は、縦及び横がそれぞれ1メートル以上である開口部を有し、幅0.3メートル以上、長さ1メートル以上の受付カウンターが通路面から適当な高さの位置に設けられていること。
  2. 玄関帳場がない場合は、近隣住民からの苦情等に対応する者の氏名、連絡先及び所在地を明示し、緊急時における迅速な対応を行う体制を整えること。
  3. 客室のうち浴室、便所、洗面所、踏込等を除いた部分の床面積は、その客室の定員に2.47平方メートルを乗じて得た面積以上であること。(簡易宿所の場合で階層式寝台を有する場合にあっては、1.65平方メートル)
  4. 客室にトイレが無く、共同トイレを設ける場合は、男子用、女子用の別に分けて設けられていること。
▶申請時に添付する書類は以下の通りです
  1. 周囲300メートル以内の見取図及び配置図
  2. 設計概要書(客室及び主要部分の構造概要を記載)
  3. 各階平面図
  4. 立面図(4面以上で建築物、門及び塀の形態、意匠並びに色彩を明示)
  5. 玄関帳場を有する場合は、玄関帳場又は玄関帳場等の詳細図
  6. 玄関帳場を有しない場合は、旅館業法施行規則第四条の三に規定する事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備及び宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備の配置図
  7. 玄関帳場がない場合は、近隣住民からの苦情等に対応する者の氏名、連絡先及び所在地を明示し、緊急時における迅速な対応を行う体制を整えること。
  8. 営業施設の敷地内の屋外広告物の詳細図(設置箇所、形態、意匠及び色彩を明示)
  9. 給排水、暖房、換気、採光、照明及び防湿の設備の構造並びに仕様の概要
新宿区

「宿泊者が利用する廊下、階段、昇降機その他の通路は、専用のものとすること」が求められる

新宿区の特徴は、共同住宅の一部や雑居ビルの一部で旅館業営業を行おうとする場合には廊下や階段、エレベーターと宿泊者専用のものにしなければならないことになっていることです。
これでは実際に共同住宅の1室で許可を取得することは不可能に思えます。
しかしながら同時に、区条例13条には区長が「構造設備の基準を適用する必要がないと認める場合又は当該基準により難く、かつ、公衆衛生上支障がないと認める場合」には、この規定や男女別の共同浴場や共同トイレの設置義務を免除すると規定されています。
担当 新宿区 健康部衛生課(新宿区保健所)環境衛生係 電話:03-5273-3841

新宿区旅館業許可の主な内容

  • 客室には、次に掲げる営業の区分に応じ、それぞれに定める人数を超えて宿泊者を宿泊させないこと。
    ア 旅館・ホテル営業及び下宿営業 規則で定めるところにより算定した1客室の有効部分の面積(以下「有効面積」という。)3平方メートルにつき1人
    イ 簡易宿所営業 有効面積1.5平方メートルにつき1人
  • 営業従事者が客室その他の宿泊者の利用に供する場所までおおむね10分以内に到着することができる体制を確保すること。
  • 玄関帳場又は代替設備に営業従事者を常駐させること。
京都市

全国一厳しい規制

京都市の条例は全国一厳しいと言っても言い過ぎではないでしょう。許可を取得する立場から見れば、以下のような点が大きな壁となります。
  1. ホテル・旅館 玄関帳場代替設備が施設内に必要
  2. 簡易宿所 小規模宿泊施設(1客室で9名以内)の場合は施設外玄関帳場が必要
  3. 住区がある場合は専用の廊下、階段、出入口が必要
  4. 施設内又は施設外玄関帳場に職員の常駐が求められる

京都市旅館業許可の主な内容

民泊施設で旅館業許可を取得する場合、一番のネックになっていたのは、玄関帳場を設け、施設内に人が常駐しなければならないことでした。
そこで国は平成30年に旅館業法の大幅な改正を行い、玄関帳場の代替設備を施設外に設置すれば玄関帳場の設置義務を免除することにしたのです。
このことによって全国で無許可民泊が大幅に減少し、旅館業、とりわけ簡易宿所営業施設が急増しましたが、全国で周辺住民との摩擦も生まれました。その大きな原因はいままでのホテル・旅館とは違って、施設内に人が常駐していないことや、同一施設内に旅館業施設と住区が混在していることに起因するものでした。 そこで京都市は市独自の条例でこれらの規制を行うことにしたのです。
その主な内容は以下の通りです。
  1. 玄関帳場代替設備が施設内に必要
    旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準(条例8条)では、玄関帳場を設けない場合は、代替設備が設けられていいことになっていますが、京都市が他市と違うのは、それを旅館業施設内に設置することを求めている点です。(「玄関帳場代替設備を設けるときは、施設の内部に旅館 業法施行規則第4条の3第2 号に規定する設備を有する部屋を設けること」)

    しかしこれは旅館業法違反の疑いが濃厚です。国は『旅館業法に関するFAQ』において、「(代替設備が)それぞれの機能が施設とは別の場所に存在したり、分散して存在したりすることは問題ありません。」と述べています。

  2. 簡易宿所営業は代替設備認めず
    又、簡易宿所営業では、そもそも代替設備そのものを認めていません。

    これについては、国は「法令違反にはなりませんが、今回の旅館業規制見直しの趣旨を踏まえ、適切なご対応をお願いいたします。」と都道府県・政令市を指導していますが、その趣旨にするものです。

  3. 簡易宿所には施設外玄関帳場設置を求める
    簡易宿所の場合は代替設備を認めていない替わりに小規模宿泊施設(1客室で9名以内)の場合は施設外玄関帳場設置を認めています。
    これは旅館業施設内施設という位置付けなので、建築基準法の用途制限や「住区がある場合は専用の廊下、階段、出入口が必要」という規定も適用されます。
    よって共同住宅の一室に施設外玄関帳場を設けることは事実上不可能ということになります。
    又、職員を常駐させ、10分以内に到着することができる場所に設けることが求められます(条例10条1項4号)。

    但し、複数の簡易宿所の営業者が、共同して一の施設外玄関帳場を設置することも、旅館・ホテル営業の施設の玄関帳場が施設外玄関帳場を兼ねることも可能です。(要綱9条)

  4. 住区がある場合は専用の廊下、階段、出入口が必要
    条例8条1項10号は「玄関、客室その他の旅館・ホテル営業の用途に供する施設が存する建築物に住戸が存するときは、当該旅館・ホテル営業施設が当該住戸と明確に区画され、かつ、当該建築物の廊下、階段、出入口その他の避難施設に宿泊者と当該住戸の居住者の共用に供する部分が存しない構造とすること。」と規定されています。この規定は簡易宿所でも同じです。(条例9条)

    この条項により、事実上マンション(共同住宅)の1室で旅館業営業を行うことは不可能になりました。よって京都市では1棟マンション全体で許可を得るか、戸建住宅で許可を得る以外に方法はありません。

  5. 施設内又は施設外玄関帳場に職員の常駐が求められる
    4章 衛生に必要な措置の基準、15条1項13号は「次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる場所に、人を宿泊させる間駐在し、又は使用人等を駐在させること」と規定しています。
    施設外玄関帳場を設ける場合や玄関帳場代替設備を設置する場合は「施設におおむね10分以内に到着することができる場所」、玄関帳場を設ける場合は施設内に駐在させることが必要となります。

    上記(1)から(4)は構造設備基準であり、それに違反すると最悪旅館業許可取消しの原因となるものです。しかしこの(5)は、「衛生に必要な措置の基準」であり、是正命令(条例20条2項)に反した場合には「50,000円以下の過料に処する(条例26条)」と規定されていますが、許可取消しの原因とはならないものです。

岡行政書士事務所
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